第2章 きみはまぼろし
うたたねのように浅い眠りを幾度となく繰り返した。
夢と現の曖昧な感覚が抜けきらない。
断片的な映像が何度も意識を掠めては消えていく。
それは過去の出来事であったり、未来への想像であったり、あるいはいつか読んだ物語のワンシーンであったり。
混在する現実と妄想の境目を移ろっているうちに、唐突な目覚めが訪れた。
目覚め、と感じたものの、彼――シルビアはすぐに理解した。
――これは、夢ね。
意識は、はっきりとしている。
というよりもむしろ、意識だけ場違いに冴えている。
身体は熱っぽく浮ついているのに、表面の感覚だけが鋭敏だった。
似たような感覚は以前もあった。夢と分かってみる夢は、得てしてそういうものだ。
今まで横たわっていた寝台からゆっくりと身を起こし、シルビアは改めて周囲の状況を確かめた。
どこかの山小屋らしき場所である。そこかしこに古書が積まれ、日用品も雑然と放置されたまま、生活感が多分に残された空間だ。
――どうも見覚えがあるような、ないような。
思い出そうとして諦めた。
――夢だものね
いずれにせよ現実の光景ではない。
汗で湿った髪をかき上げて自分の体を確認する。
上着とズボンはなく、上半身はぴったりとした黒の肌着、下半身は同じく黒の下履きだけの姿だ。
――これは普段と同じね。
妙なリアリティに苦笑する。随分寒々しい装いだが、過度に温められた室内では、むしろ汗すら滲むほどだ。それもそのはず、暖炉には勢いよく炎が燃え盛っている。除けられた灰の量から察するに、誰かが定期的に薪をくべていたらしい。
仲間たちの誰かだろうか?
だが周囲に、シルビア以外の姿はない。