第1章 まずいことになりました
「あの、リーズレットさんはどうですか?」
「えっ?リーズレットってあの、氷の魔女か?」
「そうです。リーズレットさんなら、長いこと雪原を見てこられた方ですし、魔物にも詳しいんじゃないでしょうか」
「でもよ、変異体が出てきたのはここ最近のことだぜ?分かんのかな…」
それもそうですね、と再びうつむく○○だったが、ロウが膝を打った。
「いや、ここは○○の言う通り、リーズレット殿に相談してみよう」
カミュとマルティナを順に見ると、
「リーズレット殿もまた、雪原を長らく支配してきた強力な魔女じゃ。少なくともここに居るよりは有益な情報が得られるとワシは思う」
カミュは頭を掻きながら、
「わかった。そういうことなら早速城へ向かうとするか」
「待って、シルビアはどうするの?」
窓の外を親指で示すマルティナ。
「雪がまた降り出したわ。今のシルビアを、城下町まで連れていくのは危険よ」
――粒の細かい乾いた雪が、再び曇天から舞い降りてきている。
北方の天候は無慈悲だ。控えめな細雪でさえ、前触れなく吹雪に変わることがある。
特に戦闘不能かつ昏睡状態の人間を守りながら、魔物の闊歩する雪原を引き返すのは自殺行為に等しい。
そこで○○が手を上げた。
「私がシルビアと残ります。」
全員が、ぎょっと彼女を見た。
「大丈夫です。多少なら回復魔法も使えるようになりましたし」
見たところ、暖房用の薪や食料もそれなりに備蓄されている。
数日の逗留ならひとまずの問題はない。
「…すまんが、そうするほかないようじゃな」
ロウはシルビアと○○を見比べた。
「○○、頼めるか。ワシらも急ぎ戻るようにする。それまで何とか…」
任せてください、と○○は表情を引き締めた。
カミュとマルティナは不安げに顔を見合わせたが、結局それ以外の方策は思いつかない。
せめても早く戻れるように、雪の弱いうちに三人は小屋を出て城下へと向かっていった。