第1章 まずいことになりました
クレイモラン城下を離れること数キロ、シケスビア雪原の外れにあるエッケハルトの山小屋にて、ロウは深々とため息を付いた。
――やれ、困ったことになった
部屋の隅には、簡素な寝台、そしてそこに横たえられたシルビアの姿があった。
脇にはカミュとマルティナ、そして○○がそれぞれ不安げな面持ちで立ち尽くしていた。
「ロウ様。シルビアの容態は…」
最初に尋ねたのは○○だ。
ロウは口元のひげをさすりながら、うむ、と小さく肯くと、
「…傷は回復しておる。」
表情をやや険しくした。
「しかしどうにもおかしな状態じゃ」
「どういうことだ?」
カミュは手近な椅子を引き寄せて掛けた。
ロウはシルビアの寝顔を一瞥し、
「――昏睡がどうも深すぎるんじゃよ」
と両腕を組んだ。
先の戦闘でのことだ。偶然出会った魔物の群れと戦った際に、シルビアは爆弾岩とみられる敵の自爆に巻き込まれてしまった。
爆発自体は寸でのところで回避したが、放たれたあやしい光の直撃までは避けきれなかった。
光線を浴びたシルビアは、その場で昏倒、意識を失ったのだった。
慌てたロウと○○で回復を試みたのだが効果はなく、幸いにも近くにはエッケハルトの山小屋があったため、ひとまずそこに連れ帰ったものの、シルビアは依然として昏々と眠り続けるままだった。
マルティナは、当時の様子を思い返しながら口元に手を当てる。
「あの魔物…確かに様子がおかしかったわ。」
近くで目撃した○○も同意した。
「目を覚ましてこちらに気付いていたのに、威嚇もしませんでした。身体の色も普通と違いましたし…」
「あいつも変異種かもしれねえな」
「うむ…」