第1章 まずいことになりました
「シルビアッ後ろ!」
雪原に炎が閃き、誰かが自分の名を呼ぶ。
ほとんど悲鳴じみた声だった。
瞬間、シルビアの視界の端に、邪悪な笑みをたたえた爆弾岩の姿が飛び込んできた。
紫がかった丸い体躯は、お互いの存在を認識しあったとみるや、途端に鮮やかな赤色に変わり、まるで熟れた実がはじけるように膨張、息つく間もなく爆発した。
――しまった
間一髪、直撃は逃れたが、死に際の魔物が放った紫の閃光は避けきれなかった。
とっさに手で目を庇ったものの、光線はシルビアの網膜を貫き脳裏で激しく爆ぜた。
「…ッ!」
後頭部に殴られたような衝撃が走り、強烈なめまいに身体がのけぞる。吹き抜ける爆風は甘ったるく、それでいて濃い獣臭を残して鼻の奥に刺さった。
――シルビア、とまた誰かの叫ぶ声が聞こえた。
呼び声に答えようとするが体は動かない。
けだるい痺れが全身を浸食し始めている。意識は遠のき、視界が白く染まっていく。
だめだ。今手放したら、アタシは――