第4章 雪降って地固まる
――まだ明けきらぬ薄闇のシケスビア雪原を、黒鹿毛の雄馬が二頭、軽やかな足取りで駆け抜けていく。
顔つきも優しげな北の駿馬である。馴れた足取りは楽し気に新雪を蹴散らすと、舞い上がった氷の粒が朝日に輝いた。二頭の背にはそれぞれ、カミュとマルティナがまたがっている。馬たちの歩調とは異なり、その表情は決して穏やかではない。
「大丈夫かね、あの二人」
カミュが手綱を手繰ると、並走するマルティナは、
「あんまり、考えたくないわ…」
白いため息をついた。
「…もっと早く分かってたら、絶対二人で残すなんてさせなかったのに」
「いやあ、それは…」
はっ、と馬に一鞭をくれたマルティナが半馬身ほど先に行くと、カミュはしばし無言で考え込む。
――昨夜のうちに、ロウ・カミュ・マルティナはクレイモラン城にてリーズレットと接見することができた。
状況を説明し、魔物について情報を求めたところ、リーズレットは特に迷うことなく、
『それ、亜種の爆弾岩ね』
あっさりと答えて寄越した。
いわく、爆弾岩とは天然自然の邪気が特定の地形に宿って生まれる魔物であり、
『可燃岩質…要は爆弾岩が生まれやすい土地ってのがこの辺にもあるんだけど、たまにそういうところに別の魔物が住み着いたりするのよ』
ミルレアンの森付近では、インプや化けキノコ、ダークサキュバス類が稀に爆弾岩の発生源に巣をかけることがある。すると彼らの分泌する強いメダパニ成分、催眠・催淫成分が爆弾岩の生成に影響を及ぼし、
『亜種の爆弾岩の出来上がりってわけ。んで、そいつが自爆すると、そういう成分が一気にまき散らされて…』
場合によっては強い刺激で昏倒し、意識障害を引き起こすこともあるという。