第3章 境界線
お互いに、相手の顔を見ることができない。しばらく沈黙が続いたが、○○は思い切って自らシルビアの身をもぐ様に離した。
「と、とにかく、魔物に操られてたんだよね、じゃ仕方ない、うん」
未遂だったし気にしてないから、と寝台から離れようとした○○の手を、
「待って頂戴」
シルビアがつかんだ。
「!」
身構えたが、シルビアの顔は真剣そのものである。
「混乱してたのは…確かよ。本当にごめんなさい。怖い思いをさせたわね」
と、そこまで言うと深く長い息を吐いて、
「でも…アタシ、自分のしたことも言ったことも忘れてないわ」
「いや、でも、それは本心じゃないわけだから…」
「…本心よ」
「え…?」
シルビアは、○○の肩に手を置くと、
「…不本意な流れだけど、誤解のないように言っておくわ。○○、私はあなたが好き。一人の女性として、あなたのことが好きなの」
「し、シルビア?」
○○は顔色を変えた。まさかまだ、錯乱状態が解けていないのか――
その表情に業を煮やしたのか、
「あーっもう!」
シルビアは突然○○を引き寄せると、唐突に深く口づけを落した。
「!!」
――○○の顔が一瞬で燃え上がった。
さっきまでの卑猥なキスよりも遥かに軽やかな口づけのはずが、一瞬で全身から力が抜けてしまう。
シルビアの頬は○○以上に赤かった。彼は口元を片手で隠すように、
「――責任、とるわ」
短くつぶやいた。
「え…」
それはどういう、と震える声で尋ねると、シルビアは観念したように目を閉じて、
「全て終わったら、アナタ、アタシとソルティコに来なさい」
「シルビア、それって、あの、まさか」
そうよ。とシルビアはそっぽを向いた。
「――騎士に二言は、なくてよ」
今度膝から崩れ落ちるのは、○○の方だった。