第3章 境界線
――やめて
もがけばもがくほど、○○を拘束するシルビアの腕力は強くなっていった。改めてまざまざと見せつけられた男の力に、○○の身体に本能的な恐怖が奔る。
ようやく唇が離れたのは、お互いに息が止まる寸前のところだった。
その隙に、
「ね、シルビア!どうしたの!おかしいよ!」
○○は怒鳴った――はずが、声は頼りなくかすれて震え、ほとんど反射に近い涙がこぼれた。
――なんで。
喉に当てた手が震えていた。恐怖からくる痙攣なのか。
シルビアの長い指は、子供をなだめるように○○の頬を滑り、涙を拭って、唇に触れる。
「…おかしくなんか、ないわ」
小首をかしげるいつもの微笑み。いや、それゆえの異様さがある。
○○は直感的に理解した。
――あの魔物だ。
シルビアを昏倒させたあの光、やはりあれは強い魅了攻撃だったのだ。邪悪化した魂と引き換えに、通常より強烈な威力を持ったに違いない。
だから戦闘が終わった後も、彼の精神に作用し続けていたのか――
「シルビア、目を覚まして!」
魅了なら、強い物理的ショックを与えれば解除できるはずだ。しかし、横目に入ってくるシルビアの筋肉は、鍛えぬかれ引き締まった鋼のようですらあった。
――だめだ。
○○は青ざめた。
力では到底敵わない。どうすれば――