第1章 窓辺の君
「お、お待たせしました」
今は知り合って、さらに関係を深めていくタイミング。そんな時期なのかもしれないと、校舎から出てくる少し恥ずかしそうな名を見ながら思う巻島。
「お、おぅ」
図書室で震えた名の携帯。一緒に帰りませんかというお誘い。皆と帰らず、下で待っていてくれている巻島を思うと、図書室を出る時に開ける戸の音も、階段を下りる一段一段も普段とは違った音がする。恋愛小説で読むドキドキ感というのはこういうものなのだろうか、誰かが待っていてくれているというのはこういう事なんだろうか。そう思いながら正門にいくと携帯を見ている巻島を見つけ、その横顔やたたずまいに惚けてしまう。
「返信なかったから来ないと思ったショ」
「あ!す、すみません。先輩下にいたから、あ、あの急いでて」
そう名が言うと巻島が不思議そうに
「・・・見てたんショ」
と一言。途端、
「い、いえ!いや!見てたんですけど、別にいつも見てる訳じゃなくて!」
と最後の方はしょんぼりしている名を見て少し笑えてしまう巻島
「俺、こいつあるけどたまに一緒に帰らねぇ?」
思いがけない誘いに名が反応に困っていると
「い、嫌だったらいいんだっ。悪い。」
少し早まったなと焦りながら撤回する巻島に
「い、いやではないです!!」
と答えれば
「そっか。なら」
と巻島が笑顔を向け、名を撫でようとすると巻島の携帯が鳴る。画面を見て、ため息をつく巻島はそのままバイブが鳴りっぱなしで携帯を閉まってしまう。
「あ、あれ良いんですか?」
「いーいー」
と、そのうんざりした顔に少し笑えてしまい、出会うまでの話や部活の話をして
「またな」
「はい」
と帰る頃にはすっかり親しくなった二人。バイクで走り去る巻島を見送りながら名は少し熱くなった胸を押さえて帰宅した。その日から帰るのはお互いの都合で良いと話したこともあり、巻島からの誘いがない間に名が帰れば名から連絡があり、お互い部活後に連絡がなければ各々と言った感じで、
((都合良い奴って思われてないか?))
とお互い思っていた。もっと、こう、進展が欲しい巻島。
『まだ居るなら帰らね?』
と送れば即返信が来るのはここ最近の成果だろう。