第3章 終わる夏
「次があったら勝ってやるさ」
と笑った。あの時、小野田が巻島に追い付いた姿を名は自分に重ねられたらと思っていた。遠い所から追いかけて追いかけて、追い付いて。けれど追い付いてもまた巻島に先に行かれてしまう。その時自分は小野田の様に笑っていられるだろうか。
(まぁ、小野田君の場合は先に行かせるために追いかけてた訳だけど)
けれど、やっぱり追い付きたくて追いかけていたのに、更に上に行かれていたら、それはもう一生追い付かないのでは?
「どうした?」
難しい顔になる名を心配する巻島。それに笑顔で返すと、今度は巻島が少し難しい顔をしていた。
「大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、まぁな。明日も大変だ。早く寝ろよ」
とポンポンと頭を撫でられ「おやすみなさい」と挨拶を交わし別れた。
次の日。あの表情の理由はこれだったんだとスタートと同時に田所の足が止まった。小野田は自から田所を引きに落ちていき、皆心配していた。昨日今日とそんな事あってたまるかと、なのに小野田君はどんどん順序が上がっていき、またもや100人抜きみたいな事をしてくれた。しかも田所先輩をひいて。その瞬間は見られなかったが巻島さんが嬉しそうに話してくれた。
そして、三日目。箱学と並んでいた時、集団に飲まれそうになる。
「あの時は驚いたっしょ。なんたって、真後ろに集団だからな」
とその晩、名の隣でしんみりと話す巻島。まんまと小野田が飲み込まれ、
「あいつ、こうやって話してると毎日何か起きてるな」
と愛しそうに小野田について話す表情に少し嫉妬しながら
「本当におめでとうございます」
と言えば
「おいおいまた泣くなよ。」
と涙で緩んだ目元に触れられながら巻島が同じく愛しそうにこちらを見る。
三日目、落ちた小野田を箱学が引いてきてくれたおかげか、金城はリタイア、今泉もバイクトラブルが起き、箱学の一年生と共に勝負した小野田は優勝した。小野田がゴールした時も、巻島がゴールしてきた時も、表彰台に皆で並んだ時も常に泣いていた名。
「まだ涙出んのか」
と優しくしてくれる巻島にますます目頭が熱くなり、それでも笑顔を返す。悲願の優勝。総北の初優勝。毎日何かしら誰からしらに試練が与えられていた今回のレース。
「本当に良かったですね」
「そうだな」