第2章 不思議な関係
「気をつけて帰れよ」
勉強を終え、駅まで見送ってくれた巻島さん、もとい裕介さん。
裕介さん。相手を名前を呼ぶにはそれなりの関係だと思っているのだけれど、呼んだ時の反応は
(全く嫌そうな感じはなかったなぁ)
むしろ、二人の時にだけでと照れてしまい
(不思議な先輩)
まぁ、会った時から不思議だった。そして
(会った時から綺麗だったな)
さっと去ってしまった時も、コースを走る時も靡くあの男子高校生には珍しい長髪。背があって細くて妙に色っぽくて、あの、いつも下で待っていてくれる時の立ち振舞いも、コースを走る時の姿勢も
(す、好きだなぁ)
中学の時は一階が図書室で、運動部が五月蝿くて窓なんて開けられなかった。やっと静かに過ごせると思っていたら裕介さんと会って、気づけばいつも考えてて、探してて、あの、初めて一緒に帰るってなった時の待っていてくれる佇まいに惚れてしまったのだと思う。今まで会ってきたことのない大人っぽさにあてられているだけなのかも知れない。けれど、窓際で見える事を知ってからはいつも探してしまう自分が居る。きっと言ったところで私なんて相手にすらならない、そう思って都合良くしていた。けれど最近、何か、何か違う気がする。だって気づけばいつも一緒に帰って、たまに迎えにも来てくれて、気づけば名前で呼ばれていたり、家に来ていいとか名前で呼んでくれとか、
(なのに名前は二人きりの時だけってのは、やっぱり周りに誤解されたくないからなのかな)
と言うか、そんな手のこんだ事が出来たら巻島は恋愛に関してはダメ男ではないだろうか。
(やっぱり遊ばれてるだけかな)
今日のこの舞い上がった出来事と勉強内容等も一緒に考えながら帰宅していき、二人きりの時だけとの言葉がやけに気になっていた。
翌週、英語のテストがいつもより出来たのが嬉しく、直接巻島に礼を言いたいと思い図書室に向かったものの、さすがにテスト最終日に居残りをする訳もないと気づき、それでも少しの可能性にかけていつもの席について読みかけの本を開く。やけに長く感じる時間、全く進まない時間、外を見ても誰も走っていないコース、図書室もいつもより人気がなく、本を読むにも身が入らなくなり図書室を後にした。残っている生徒の笑い声が響く人通りのない廊下、誰も居ない教室。待っても来ない待ち人と、結局一人で帰る自分。それがなんだか虚しく思えて