第2章 依頼の時間
「君に椚ヶ丘中学校に行ってもらいたい」
柊さんから連絡を受けた翌朝六時。
まだ眠気が居候するなか訪れたのは、前髪を上げてほうれい線が少し目立つスーツの男性……柊さん。
それから同じく前髪を上げたまだ若そうな男性。
確か、烏間さんと言ったっけ。
二人をリビングに案内しコーヒーを出すと、開口一番に告げられたのが先程の言葉。
椚ヶ丘中学校はこの辺りでは進学校として有名。社会に貢献している人の大半はこの学校の卒業生だ。
「別に良いですけど。保険医としてしか潜入出来ませんよ」
「いや、生徒として、だ」
「は?」
どう見ても烏間さんの顔は真面目そのもの。本気で言っている。付け加えると柊さんもだ。
「いやちょっと。いくら何でも無理がありますって。私一応二十歳ですし。学力も自信ないです」
「体格に関しては問題ない。君より背が高い女子生徒もいるからな」
それはそれで少し傷付く。最近の中学生は良いもの食べてるのかな。
「学力面も問題はない。ルカは確かに学力は心許ないが、聡明なことに変わりない。資料があれば編入試験を通ることなど容易いはずだ」
「一応誉められてるって受けとるね、柊おじさん」
じとっとおじさんを睨めば明後日の方へ視線を外す。お小言マスターはこれだから嫌になるね。
「あーもう、わかりましたよ。引き受けます。で、私にどうしろと?」
「暗殺者の君に頼むことではないとわかっているが」
少し申し訳なさそうな顔で湯気が薄くなったカップを運ぶ烏間さん。その喉を動かした後、大きく口を開いた。
「君には椚ヶ丘中学校3年E組の生徒、26名の護衛を頼みたい」