第3章 訓練の時間
ぬめりとした粘着性があり、こちらを捉えて離さない。それと同時に水をかけられたような衝撃と冷たさ。
「柊君、どうかした?」
「…なんでもない」
……殺気だ。
いや、正確に言うと"殺すまでに至らない微弱な意志"。
そもそも殺すとは強烈な意志で、隠すことは相当難しい。だから私達暗殺者は仕草や話術で相手の気を反らせて、少しでも感知されないようにしている。
実際、今まで請け負った依頼現場では常に誰かしらの微弱な殺気を感じていた。
けれどここは教育現場。特殊な環境ではあるけれど、殺気が流れていい場所ではない。
殺気を感じた方向には、烏間先生と。
「渚、座り込んで何してるんだろ?」
「烏間先生に防がれちゃったかもね」
自力で立ち上がろうとしている、渚君。
烏間先生が……教師が生徒に向かって殺気立つなんて、マッハ20で飛べる殺せんせーが転けるくらいにあり得ない話。
ならば、必然的に生徒ということになる。自慢ではないけど、私は殺気には敏感で強弱や距離等の誤差はわずか。
烏間先生の付近で殺気を感じ、先生ではないとすると。先生の近くには渚君しかいない。
「渚君って、皆のサポートに回ることが多いんだっけ」
「そうだよ。殺せんせーの弱点メモってるし」
「あー。殺せんせーの弱点、俺も教えてもらったよ。色々書いてあるみたいだね」
「一番殺せんせーのこと知ってるのは渚君だと思うよ」
「…今度聞いてみよっかな」
もしも。
もしも渚君が主体となって殺せんせーに仕掛ければ。勝機が少し見えるかもしれない。