第1章 東京大雪
ポタリとこぼれた涙が彼女の鎖骨に落ちる。
ジュウと音を立てて、彼女の肌が涙の形に溶けた。
「泣かないで…」
彼女はオレの涙を拭った。冷えた指が雫に触れるたび、美しかったそれはぐじゅると溶ける。
オレの頬はもうオレの涙よりも、彼女の指だったはずの液体の方で濡れていた。
「私は大丈夫だから…」
彼女は左手を自分の腹に当てた。オレの熱い精液を受け止めたそこは、もはやドロドロに崩れていた。
オレの腰に回されていた脚も布団に落ちて、形を無くしていく。
「オレ…いつか絶対、帰るから…。北に…」
「いいから、今のお仕事頑張りなさい…」
嗚咽を漏らすオレを慰めるように柔らかく笑いながら、彼女の手も、髪も、顔も溶けて、やがて布団の上には、大きな大きな水たまりだけが残った。