第4章 ”従え"
そこにいたのはなんと、赤司くんだった。
一人で黙々と3Pシュートを打ち続けている。
こちらには気づいていないみたい、とても真剣な目だ。
ふぅっと息を吐き、全神経をボールを投げる腕に集中させてシュートを放つ。
赤司くんが放ったボールは綺麗な半円を描いてゴールに吸い込まれた。
それでも、赤司くんは満足そうな表情はしない。
私は我を失ってそんな赤司くんの姿に見惚れていた…。
素晴らしいほど完璧なフォーム。
シュートを放つと飛び散るキラキラした汗。
着地した時の綺麗な筋肉。
なにもかもに目を奪われた。
そのくらい、赤司くんのバスケは美しかった。
バスケ部の主将として練習メニューを考えたり、部員達の練習を見たり。
ほとんど休む暇もないくらいだと思う。
前に、他のキセキの世代の人たちは口を揃えて赤司くんの事をこう言っていた。
『あいつには欠点がない』
私も今まで、確かにその通りだと思っていた。
試合中も常に冷静沈着。ミスが一つもない。
持って生まれた才能なんだと…。特別なんだと…。
でも、今この瞬間にその考えは泡になって消えた。
赤司くんは人一倍努力して寝る間も惜しんで練習している。
赤司くんに欠点が無いのは苦手を次々と克服しているから。
今だってシュートを外すと悔しそうに顔を歪ませている。
赤司くんがシュートを外すのを見るのはこれが初めてだった。
多分明日には克服しているだろう。
そうやって赤司くんは頂点に立っているんだ。
何分そこにいただろう…。
まだ赤司くんは一人でシュートを打ち続けている。
"ブーッ ブーッ"
突然携帯のバイブが鳴り出し、思わず声が出そうになる。
ディスプレイを見ると紫原くんからのメールだった。
紫原【亜美ちんどこー?校門にいるよー】
(やばい!急いで戻らないと!)
私はもう少し見ていたい気持ちを押し殺し紫原くんが待つ校門へと向かった。