第16章 しんろそうだん
もし普通に毎朝ご飯が出てきて、平穏に学校に通えたなら、あの日の事故がなければ、あの家に引き取られなければ…。
たくさんの分岐点の中、運命はただ1本の道を描いた。
それが今の私。
「普通じゃねえなりに悩め。
冬まであと数ヶ月。
それまでにそこそこ勉強して遊んで、セックスでもしてろ」
「そうですね…」
少しだけ肩の荷がおりて、安心する。
繋心さんは、こういうことが本当に上手だと思う。
自分ではわかっていないみたいだけど、洞察力が高くて、欲しい言葉をすぐくれる。
いつもの真剣な顔に少しだけ無邪気な笑顔が入った。
胸がきゅんとときめいて、握られた手が熱くなってくる。
「繋心さん、好き」
「知ってる」
「えっちシたい」
「ダメだ」
膝に跨がってお願いしてみたけど、なんとも早いお断りを受ける。
ちょっと悲しくて、しゅんとした顔で繋心さんを見つめる。
「もうすぐ晩飯だろ?」
「…うん」
「あとで、な」
私から言ったはずなのに、繋心さんから改めて言われると恥ずかしい。
短く返事をして、すぐに身体を離した。
「繋心さんは、進路とか悩んだんですか?」
「どーだっけなー…まあ、まだ悩んでる途中でもあるしな」
ふーっと煙が舞う。
モヤモヤとして、照明が見えずらくなる。
それは、今の私の気持ちと似ていて、なんとなく居心地がよかった。