第96章 【番外編】なんて嫉妬深い王子様
ヒーローは優しく抱きしめてくれて、そっと、唇が重なる。
ふりのはずなのに。
客席から黄色い歓声、舞台からは、あ…という声。
そして、背中に刺さる痛い視線。
誰だかわかっている。
それは鋭く尖っていて、私にいやな汗を流させる。
「…っ、ちょ、ちょっと…」
なんとか顔を離させてから、咎めるように小声で言う。
「ごめん、でも、僕は、ずっと君を…」
一言謝ると彼はそのまま台詞を続けた。
ただそれは、演技でもなく、本物の告白、のような気がした。
熱の入った演技に、客席からまたざわめきが走る。
カーテンコールも程々に一番真っ先に講堂を出ていった黒い影を追う。
「っ、るるさん!?」
「ご、ごめんね!後で戻ってくるから!」
なんだか泣きそうだった。
誤解されたままも嫌だったし、結局お互い会えないままで、その上見られて。
ヒールの高い靴を手に持ち直して、走って、やっとその姿に追い付く。