第96章 【番外編】なんて嫉妬深い王子様
ざっくりと流れを説明され、あれよあれよという間に可愛らしいドレスに着替えさせられる。
物語はよくある身分違いの恋愛もの。
「えっと……」
舞台のブザーが大きく鳴り響く。
「ひぇっ…」
「ハケる方向はこっちで誘導するから!」
「あ、う、うん!お願いね!?」
心臓が痛いくらいにばくばくする。
これを毎回こなしてる演劇部は本当にすごいと思った。
幕が上がると、思った5倍くらいは観客がいる。
「………っ」
台詞を必死に思い出し、なんとか聞き取りやすいくらいの声を出してなるべく丁寧に言う。
もう物語を追うとか、そんなカッコいいことは出来そうになかった。
舞台の方向を見ると、見慣れた黒ジャージ姿の軍。
「あ…」
「姫…!?」
「あ…!ご、ごめんなさい、なんでもございませんの…!」
なんとか誤魔化し、慌てて役者に顔を背ける。
繋心さんもばっちりいた。
とても、怪訝そうな顔を、していた。
(後で絶対になにか言われる………)
物語が中盤にさしかかり、ヒーローの一人幕が始まる。
舞台裏で皆がうちわで扇いでくれる。
「るるさん、なかなかいいよ…!」
「ど、どこが…?」
お世辞にしてもなかなかキツい、と笑う。
ほぼ棒読みの台詞に必死すぎて合わせられない動き。
時々入るアドリブにはついていけず、冷や汗が流れる。
「次、ヒーローとキスシーンあるけど、影を重ねるだけだから幅取っていいよ」
「!!?」
「横から見たらそれっぽくなるくらいで」
「……っ!!?」
すっかり忘れてたけど、確かに森で二人が再会、みたいな泣けるシーンがあったのを思い出す。
(は、恥ずかしい……)
幕が開くといよいよその再会シーン。
お互いに名前を呼び、甘い台詞が流される。
(他の人が演じてると泣けるのに…)
焦りと恥ずかしさで何も考えられない。