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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第93章 【番外編】大掃除


【いじわる、ずるい、すき】

記念日やイベントにはやっぱり疎くて、今年のバレンタインデーも貰ってから気づいてしまった。
「……あっ」
「今回のは酒入ってねぇぞ」
「…ありがとうございます…」
忘れてしまったことが急に恥ずかしくなって、誤魔化すように箱を開けた。
綺麗なチョコレートが並んでいる。
いつも食べてる20円チョコでは味わえない濃厚な香り。
すぐに高そうだと思った。
「…あ、その…」
「ついでに」
と繋心さんは紙袋をまた1つ出すと、中にはゴロゴロと箱が入っている。
「これは…?」
「義理チョコっつーやつ」
「義理…」
可愛らしい包み一つ一つを見て、たまに手作り品なのか100円ショップのラッピングのようなものもあり、中にはメッセージなんかついているのもあり……。
私がすっかり忘れている中でも、こうして他の女の子は可愛らしいことが出来るんだな、とよくわからない勝負に敗北した気分になる。
中身は部活のマネージャーさんたちと、恐らく繋心さんの昔からの女性のお友達だろう。

ため息が出る。
考えてみれば、私はまだ出会ってたかだか数年。
でも他の人達はもっと長い時間一緒にいて、私の知らない姿を知っていて、私の知らない言葉を掛けていたんだと思うと、どうしようもないやるせなさ。
「繋心さん……」
「なんだ?好きに食っていいぞ。
好きだろ、チョコ」
「あの、私……」
「どうせ忘れてたんだろ?」
「…っ」
ぐっさりとその言葉が刺さる。
痛くて、苦しくて、目が回る。
「別にいいぜ、甘いモン得意ってわけじゃねえし」
「ぁ、そう、ですよね……」
繋心さんは本当に気にしてないんだと思う。
でも今はなんとなく、そういう言葉が欲しいわけではなかった。
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