第92章 【番外編】終着点
それに対する返事は、真っ直ぐな悪口だった。
「んなもん一緒に作るに決まってんだろ。
一人でやるなら独身と変わんねえだろ」
「いっしょに…」
「またつまんねえことで悩んでんな」
「…っ、ごめんなさい…」
「や、こっちも、悪ぃ。
ちゃんと言えなかった」
「…?ちゃんと…?」
「いい、こっちの話」
繋心さんは照れたような顔をしてから、また並べられたコース料理を食べ始める。
私も、見習ってそうした。
「ここ、結構美味いな」
「よかった…」
いつも言葉一つ一つに助けられる。
やっと、張りつめていた物が、全て割れて、息苦しさがなくなったように思えた。
帰り際に、繋心さんは珍しく寄り道を提案してくれて、公園の夜桜を楽しみながら歩く。
月と蛍光灯に照らされる満開の花びらは、祝福してくれているかのように降り注いだ。
雰囲気のせいなのか、少し飲んだアルコールのせいなのか、どちらからともなくキスをした。
甘い痺れが全身に走る。
段々深くなっていくのに、外であることも忘れそう。
ワンピースの裾から熱い肌が太腿に触れる。
「…ん、ぁ…」
くすぐったいような柔らかい触れ方に、吐息と声が漏れる。
ちゅ、ちゅ、と音をわざと立てて吸われて、恥ずかしさで涙が浮かんでくる。
流されていく気がして、覚悟してたのに、着信音でふと現実に戻された。
「悪い」
その場で電話に出られ、私は急に寒くなってスプリングコートを羽織直した。
繋心さんが、急に怪訝な表情をし、わかった、と短く返事をすると電話を切る。
「帰るか」
「あ…はい…」
さっきまでの火照りはなんだったのかというくらい、呆気なく突き放されたような気がした。