第92章 【番外編】終着点
彼のお母様たちがいらっしゃらないせいか、静かなおうちがどこか落ち着かない。
そういえば、最初もこの状態だった。
初めてここに入れてもらったとき、誰もいなくて、ご飯を作ってくれて。
(久しぶりのあったかいお風呂で泣いたっけ…)
あれだけ消えたいと思ったのに、生にすがりついた、最後の終着点。
懐かしい気持ちになりながら、部屋を開けると、新しく揃えられた家具と、ところせましと並ぶ赤い薔薇の花が目に入った。
「…っ!!!」
窓際に置かれた広いベッドには、更に大きな花束。
「け、繋心さん、これ……」
「ああ」
「なんですか…?」
「プレゼント、悩んでたんだろ?
俺の欲しいのは唯一、お前だ」
「…っ!」
「何年も前からずっと待ってた。
結婚してくれ」
感情が次から次へと上がってしまって、声すら出ない。
私は、ひたすら頷いた。
そしてその身体に抱き締められて、動けなくなる。
「柄じゃねえ、わかってんだろ」
「は、はい…」
「絶対顔見んなよ」
「……いやです…」
珍しく素直に離され、一瞬だけ、照れて険しくなった表情が見られた。
「終わり!!」
「きゃっ!」
新しいふかふかのベッドに押し倒され、花弁がひらひらと散る。
「で?返事は?」
「も、勿論です……っ」
嬉し涙がぽろぽろとこぼれ、それを撫でられていく。
乾燥した指がそれを柔らかく這う。
泣き止めないまま、深く、そして熱く、肌がかさなるのを、幸せに感じた。