第90章 【番外編】皮肉なことだ
もう部活もないというのに、真面目な彼は後輩がいないのを見計らって練習をしていたらしい。
るるは相変わらずよく他の女子にパシられていたせいか、同じ時間まで校舎にいた、と。
「岩泉くん!」
「…っ!!」
近くまで帰ろうとるるは誘った。
それはごく自然な流れだった。
家は近いし、何よりもう暗いため、るるも心細かったのだろう。
「や、俺はもうちょい…」
「そっか、残念だなぁ……」
悪気はないのだろうが、彼女は本当にがっかりしたようにそう言ったそうだ。
それが、気持ちに刺さったのだろう。
「……危ないし、やっぱ、送ってく…」
かわりに、ボールや給水用のタンクを片付けて欲しいと言う。
彼女は嬉しそうに笑ってそれを承諾し、着替え終わる頃に部室の前で丁度合流した。
「あ、岩泉くん、徹さん、持って帰ってないお洗濯とかあるかな…?
おばさまが確認してって」
「だらしねえからな」
「ごめんね、ありがとう」
るるは丁寧に靴を脱ぎ、部室にあがってロッカーを確認したらしい。
人のいないとこで何やってるんだと、若干イラついた。
「あ、これかな」
「引退するときに見たのに、何やってんだ」
窓際のタオルを取り、るるは鞄にしまった。
岩ちゃんは、俺がるるにここでどんなコトをしろと命じたのか、薄々気付いていた。
故に、言ってしまった。
「………ここに来るの、ツラいだろ?」
「…………なんで?」
彼女がいつもの余裕の表情を少し崩し、間をおいて聞いた。
「……、そういう話、よく聞くから」
「…ツラいとかはないよ、大丈夫」
「マジで?」