第79章 【番外編】大人と子供
「綺麗だ」
「…っ、今、言うんですか…」
「いつだっていいだろ?」
「だ、って、今、他のヒトの話…」
繋心さんはいつもどおり、その眉間にシワを寄せて、私を見下ろす。
その顔はいつだって私をぞくりとさせる。
好きと思わざるおえない。
「お前だって、及川にイイ顔見せたろ?」
「……」
言い返せなくて、じっと見つめ返す。
「もいっかい、いって…?」
お願いしてみると、ちっ、と舌打ちされて、それから、甘く優しく、
「綺麗だ」
ともう一度言ってくれた。
徹さんと同じ言葉なのに、ドキドキはまるで違う。
「あ、ありがとうございます……」
顔が熱くなる。
「その顔、ずっけぇ」
「専用ですから…。
だから、繋心さんがほどく髪も…、私だけにしてください…」
「しょーがねえな」
拗ねた私にも優しい彼は、そう呟きながら、また一つ髪飾りを外していく。
同じように年を重ねたかった、と思う反面、その大きく頼りになる背中がやっぱり好き。
それは、私と徹さんの今のように、それなりに悩んで苦しんだ季節があったからで。
だから、少し子供っぽい私でも、優しく接してくれて。
きっと、私は昔の繋心さんも大好きだったと思う。
漸く身に付けている物が全て落ちた時に、温かい少し乾燥した掌に感じる。
回ったお酒が、まだどこか私の脳内を停止させていて、いつもより甘えていたように思う。
せっかく大人になった日なのに、いつも以上に子供のようだった。
「こういう触り方も、他のヒトにしてたの?」
「お陰で気持ちヨくなれんだろ?感謝しろよ」
と冗談で返されて、涙目になる。
「なんだよ…」
「一緒に、大人になりたかったなって…」
「無理難題なことを仰る…」
くすくすと笑われて、涙にキスをされる。
「私、ほんとに、子供で、きっと困らせてばっかりで…ごめんなさい」
「困ってねえよ、ずっと俺なんかより大人だ。
だから、今日言うことじゃねえけど…、もっと甘えろ」
「ううん、うれしい…」
柔らかく笑われて、好きな気持ちがますます膨らんでいく。
こんなお互いだからこそやっていけているのかもしれない。
きっと、この先も、ずっと先を埋まらない距離で彼は歩いていく。
私も走ることすら出来ずに、歩いて追い掛ける。