第9章 ケータイとイルカ
まだそこまで暑くもない青空に似合わない椰子の木とイルカ像が出迎える。
そういや俺もここに来るのは何年ぶりだろうかと振り返った。
あまり変わってないと思ったが、季節のコーナーや、大型水槽の追加など、割と大きい変化も見受けられた。
「繋心さん!繋心さん!カメラどうやって使うんですか!?」
館内で大はしゃぎのるるが手を引いて聞いてきた。
「ここ長押しすると…」
「すごーい!」
かしゃっと機械音がすると、熱帯魚の水槽が綺麗に写っていた。
カシャカシャと変な魚を撮ってはアナウンスを聞いて、かなり満喫しているようだった。
どんなに取り繕っても、やはり高校生。
まだまだガキなのに、人に媚び売らないと捨てられると思い、オニイサマとやらに何をされてたかは聞きたくもないが、あの諦めとも言える余裕は、本来必要のないものだ。
それだけで大分損したことだろう。
しかし、
「妬けるな…」
当の本人は夢中で走り回っている。
追いかけてやっと手首を掴んだ。
「暗いし危ないだろ。走んなよ」
「ごめんなさいっ!」
「あと、今日……連れてきたのは俺だろ……」
急に自分のガキ臭さに恥ずかしくなって目線をはずす。
何が言いたいかわかってくれたるるはぎゅっと手を繋いでくれた。
「繋心さん、かわいー!」
「うっせーよ」
結局甘えさせるどころか、こっちが構ってもらったみたいになってしまった。