第73章 【番外編】夏の夜の夢4
及川は珍しい程ガキらしい悪態をつき、また座り直した。
シャクだが自分の服を投げつけ、着るように命令した。
「大丈夫?オッサン臭くない?」
「ブッ殺すぞマジで」
「ちょっと、二人とも、やめ…」
殴り掛かるふりをしたつもりだったが、すっかり本気と思い込んだるるは立ち上がり、まとっていたタオルを踏み、そのまま前のめりに転けた。
きっといい位置にいた及川は全部見えていたであろう。
顔を真っ赤にしていたのが一瞬見えた。
「馬鹿だろ」
「も、お嫁に行けないっ」
「貰ってやる、大丈夫だ」
慰めるように尻にタオルをかけてやり、着替えるよう促した。
顔を赤くし悶えていた及川が漸く着替えて立て直した。
「いや、やっぱりオジサンとは決着をつけないといけないね?」
「は?」
「諦めきれないから」
「お前の入る隙なんてねーよ」
「それでも」
「ふ、二人とも…乱暴は…」
「やってやる、なんでもうけてやるぜぇ?
嵐でやるか?バレー…」
「いいーじゃん?」
中指をお互いたて、牽制を張った。
さああとは槍か剣か、何が出るか。
と、一際大きな轟音がすると、辺りは真っ暗になる。
「!?」
「ったく、いいとこでよー…」
「じゃあ、大富豪しましょ?」
「……」
「……」
「私も入れて、三人で!」
るるが部屋から出てくると、懐中電灯とトランプを持っていた。
そして、凄く嬉しそうだ。
「学校で教えてもらったんだけどね、二人だとつまんないから…徹さんいてくれてよかった」
そしてにこにこと配り始めた。
いてくれてよかった、の台詞にどんだけ感動したのか、及川はすごく嬉しそうな顔をしていた。
(嫌われすぎてて可哀想だ……)
ローカルルールは何をいれるかざっくり話し、一周目が開始された。
なかなかの白熱した勝負につい熱くなる。
途中、買い置きしていた物もつまみつつ、一杯飲みつつ。
結局、外の音が鳴り止むまで盛り上がってしまった。
勝負は五分五分。
るるが一人散々貧民となり、都落ちまで取り入れたのに負け続けたからだ。
顔にすぐ出るタイプな上に、あの昔の彼女はどこにいったのか!と聞き出したくなるほどの駆引きの下手くそさでぼろぼろだった。
二人が仲良さそうに話すなんて、今までほぼなかっただろう。
やっと本当の兄妹のようにやり取り出来て、るるは楽しそうだった。
及川は多分、複雑だろう。