第70章 【番外編】夏の夜の夢2
本当は、私は、ここで無視して帰ればよかった。
偶然が重なることにより、それが必然になってしまうことなのかもしれない。
そんなことを、後からになって、漸く思った。
さすがにここからおじさまの家は遠すぎる。
私は諦めてずぶ濡れの徹さんを引き摺って帰ることにした。
それは別に家族だからとか、そういう気持ちは一切なくて、ただ見つけてしまった子猫をどうしようもできなくて連れ帰る小さな子供のような気持ち。
骨があらぬ方向に曲がってしまった傘をささないで、並んでいつもの帰り道を歩いた。
洪水というほどではないけれど、道には川が流れ始めている。
さすがのレインブーツにも水が浸入しつつあり、足早に自宅に向かった。
「それで、なんでこっちの方角に?」
一応、用事を邪魔してないかの確認をしようと思って聞いたまでだった。
「……親が、これ…」
こっちの町が停電したと聞いたらしく、慌てて電気を使わなくていい食品を持ってきてくれたらしい。
袋の中には飲料水とレトルト食品がいくつか入っていた。
「あ、ありがとう…、でも、この前買い置きしといた……」
「……」
「……ごめんなさい、ありがとう」
必要ない、とやんわり言いそうになったが、ここまで来た徹さんを思い、慌てて言葉を飲み込んだ。
「も、渡したし、帰るから」
「待って!」
「なんで…」
「これじゃあ帰れないよ、落ち着くまでいなよ…」
「はあ?お前さ…」
「いないから。
繋心さん、合宿でいないから、大丈夫」
徹さんの言いたいことは、よくわかる。
こんなの、きっと良くない。
それでももう、お互いに和解はしたし、そういう関係は持たない。