第70章 【番外編】夏の夜の夢2
私が近所で徹さんを見かけたのは、もう雨が激しくなった夕暮れ。
空は真っ黒で風もあるせいか、雨は横殴りと言ってもいいほどで、傘なんてほとんど意味をなさなかった。
バイトから帰ろうと、持ってきたレインコートとブーツを身に付け、真夏なのになんでこんな格好をしなきゃいけないんだろうと、思わず愚痴を言いそうになった街角。
「何してるの…?」
徹さんの家からは、およそ徒歩一時間あるかないか。
車やバイクや自転車ならともかく、わざわざ交通機関を使ってまで私や繋心さんに会う用事もなかろうと。
疑問に思いつつあまり声はかけたくなかったけど、さすがに土砂降りで心配だ。
見捨てた私のせいで風邪なんてひかれたらたまったものじゃない。
「……別に」
徹さんは私を見るや否や、冷たくそう返した。
せっかく心配して声を掛けてあげたのに、もう、と悪態をつきそうになる。
なんだかんだ私がこんな風に怒りを顕にしたり、思ったことをはっきり言えるのは徹さんしかいない。