第68章 【番外編】泡沫のクリオネ
「っ!!!!?」
「どうしました?」
わざとらしく、媚びるように聞いた。
「いや………え、なにこれ……」
「ああ…」
恐怖に戦慄く彼の表情が、ちくちくと胸に刺さる。
「あなたも、そういう趣味なんじゃなくて?
お好きになさってください…?」
さあ、と唯一身に纏っていた下着に手をかけた。
少し太めのサイドベルトを外せば、一番見せたくないモノがあるはず。
爛れた…私の…
「ごめんなさい、ごめんなさい!もう、もういいです!!」
「……いいんですか?」
「いいです!!お金、置いとくから…っ!!先、帰るね!!!?」
声を裏返しながら、彼はお財布からいくらか投げるように置いていくと、逃げるようにお部屋から出た。
がちゃ、と閉まり、オートロック独特の音がする。
「もー……慣れてるもん…」
広い部屋なのに、私の声はくぐもって聞こえる。
花柄の少し鬱陶しい壁紙を見ながら、何が悔しいとか、悲しいとか、そういうわけでもなく、整理出来ないまま、呆然とした。
鞄にあったスマホには、着信54件。
場所はわかってくれてたらしく、急いで支度して向かった。
繋心さんは怒ってはおらず、心配そうに抱きついてきた。
「……ごめんなさい…!」
「また変なのに狙われやがって……」
その瞬間に、耐えていたモノが一気に溢れだして、シャツにシミが出来るほどに泣いてしまった。
事故といえど、注意が足りなかった自分にも腹が立つし、怖がらせてしまったことにもモヤモヤしてしまったし、心配されて、こうして寝ずに待たせてしまったし…あらゆる後悔に、息が詰まる。
「一番ツラかったのは、るるだろ?」
そんなことはない、そう言いたかったのに。
その言葉で、どれだけ救われただろう。
私のことをよくわかっているその人は、優しく背中を撫でた。