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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第64章 【番外編】狭い小さな檻


「……バカなの?」
次の日部活でつい愚痴った内容をぽろりと言ってしまい、月島にドン引きで文句を言われた。
反論の余地は、微塵もない。
「彼女なりに気を遣ってるんじゃないですか?
嫌な思い出ばかりの自分の実家に戻るって、相当な覚悟してるんじゃ…?」
先生にも言われ、ぐうの音も出ない。
「……仰る通りで…」
知れ渡ってしまった愚行を止める術もなく、半ば諦めて言われたことを受け入れる。
気を遣って……、とは。
やはり俺が(夜に)無理しているのがうっすらバレていたのではないか?
そしてそれを受け入れている時点で、彼女は傷ついていないか?
なんとなく、そう思った。
「迎えに、行った方が、いいのか…」
「え?今更そこに気付くの?」
月島の返答にぐっさりとナイフが刺さる。
前のめりに倒れたい。

そのままの格好で申し訳ないが、及川邸へと足を運んだ。
外で待っていると、荷物を持ったるるが顔を出す。
3日会ってないだけというのに、懐かしくなる。
少しは我慢しているようだが、はにかんだ笑顔は死ぬほど嬉しそうだ。
(これで、よかったのか…?)
「おばさま、ありがとうございました!」
「いいよ、いつでも帰ってきて」
扉が閉まり、出たるるが門を閉める。
それと同時に飛び付いてくる。
「繋心さんっ!!!!」
「…っ!!!」

そうだ、この、香り。
たったの数日なのに、忘れていた。
いつでも夢心地にさせた後、満月で変身した野獣のように衝動を抑えられなくなる。
きっと遺伝子の螺旋に、コイツを求めるように大昔に何かを組み込まれたのではないかと。

大して保つ方ではない。
見回して、人がいないのを確認し、一瞬だけ口付ける。
電信柱についた外灯だけが、じーっという独特の電気音を鳴らしながら見ていた。
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