第58章 まほろば
「それはおかしいわね。
あのペットボトルに入っていたのは、アルコールだったわよ」
「は…?」
意味がわからない。
私は確かに、薬を入れて封をして……。
「大量に睡眠薬を飲んだのはあなた。
あんなでもお母さんはちゃんと親だったのね。
助けようと救急に向かっている途中だったのに、男はそうでもなかったみたいよ。
中毒だった男はそのまま飲み続けて……。
どっちが悪いかなんて、そんなあなたにもすぐわかるでしょ?」
「……っ」
そうだ、私は家にあるお母さんのお薬の封を全て切った。
それを流し込んで、そのまま消えてしまおうと思った。
でも、夢の中と現実の自分が混同して。
「車で起きたあなたは最後まで死のうとしていたのね。
車の衝撃と共にベルトを外した程だもの」
さあっと、木の葉を鳴らすような大きな風が吹く。
「長い間、罪悪感と闘ってたのね。
大丈夫、あなたは何も悪くない」
「……はい…」
詰まりながら、涙声で返事した。
風が、私の背負っていたものを、少しだけ拐ってくれたように感じて、気が軽くなったようだ。