第57章 【番外編】円環
「次、何飲むの?」
「レモンサワーで」
「…もう止めとけって」
「やめましぇんっ」
「繋心は?」
「あー、やめとくわ…」
「もっとのんでくらさい、わたしのことはおかまいなくー」
「……そういうわけにもいかねーよ」
繋心さんは私のお皿にまた料理を少し取り分けて置いてくれる。
なんとなく、その優しさに、泣きそうになる。
「どうしたんだ?」
「なんでもありません…」
「帰ってから説教だからな」
くくっといつものように喉で笑うと、背中を撫でてくれる。
ベッドでしてくれるような、優しい手付きだった。
ふとソレを思い出して、頭がアルコールと共に沸騰しそうになる。
私はいつでも子供のようで、1人妬いて怒って、なんなんだろう。
そんな私をいつも優しく抱き寄せてくれる。
でも、こんな風に、目の前に、大人で、長い付き合いで、なんでも話せる仲の人がいて、それでもこんな可愛くない私を選べるのだろうか。
「おてあらい、いってきまふ……」
「大丈夫か?」
「らいじょーぶ、でーす!」
ふん、と言いながら店内奥に向かった。
確かに、地面が歪んでいるようには感じた…。
もう、よしておこう。
「るるちゃん、平気?」
個室の向こうから優しい声がする。
ちょっと優しさを感じる。
平気だと伝え、戸を開けた瞬間、彼女は入ってきた。
「な!?」
「警戒してるようだけど、安心して?
私、本当にただの男友達みたいなもんだから。
妬いてるるるちゃん、可愛いよ」
「は、はあ……」
気付かれていたのか…、恥ずかしい…と同時に、今までのイヤな予感もあたる。
「でも、だからこそ、貴方の知らないことも相談出来るし、貴方の出来ない触れ方も出来るんだよ。
友達でしか出来ないノリなんて、沢山あるし、貴方の知らない秘密を私は沢山知ってるの」
「…っ」
「そういう女もごまんといるってこと。
覚えとけ、クソガキ」
「!!!」
人生で初めて女性に怒りを覚えたかもしれない。
それと同時に、深く同情した。
この人は、これ以上は進展出来ない。
恐らく、そういう戦略で恋が叶う女性もいるだろうけど、彼女はそうじゃなかった。
やっと、長い間のモヤモヤしたものが、晴れていく気がした。
かわりに、固く心に痼が残った。
それでも、譲れないから。
仕方ない、って、どこかで強く思わなきゃいけない。