第57章 【番外編】円環
繋心さんは、その日、その人と飲みに行くと言っていた。
「私も、行きたいなー、なんて……」
久し振りに我が儘を言ったせいか、目を見開いて驚かれる。
「お前がそういうこと言うの珍しいな?」
「た、たまには……だし巻き卵が食べたいんです……」
一瞬で考えた言い訳が杜撰だ…。
もっといいのがあってもよかったのに。
「あそこのはうめえからな」
いいよ、と優しく言って貰えた。
そこまでは、良し。
いつもより気合いを入れてメイクして、ちょっとだけ気に入っている服を着た。
待ち合わせに商店に来た彼女は、ナチュラルなパーカーに、ナチュラルなふわっとした髪型で、縁の太い眼鏡が凄く映えてて、本当に可愛かった。
少しだけいれてるアイラインが凄くオシャレで、元がいいって、ズルい…とひたすら思った。
「んじゃ、行こっか」
って、ちょっと可愛い声で言うだけで、100倍可愛い。
「るるちゃんは今日も可愛いね」
「あ、ありがとう、ございます…」
勝ち誇ったかのような顔に言われても嬉しくない。
醜い自分を出さないように必死に誤魔化そうと違うことを考える。
(私が一番可愛くないっ)
居酒屋さんに着く頃には既に半べそだった。
「るるは、だし巻きと何にすんだ?」
「カシスオレンジ!下さい!」
「……飲むのか?」
「はいっ!」
「程々に頼むぞ…?」
「じゃあ、あと枝豆と…」
飲まないとやっていられない、を初体験した。
乾杯と同時に苦手なアルコールを流し込む。
むわっとする熱さが思考回路を停止させてくれる。
正直もう、何も考えたくない。