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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第57章 【番外編】円環


「おい、大丈夫かよ…」
「ごめんなさい、平気ですよ」
にこっとやっといつものように笑うと、繋心さんはほっとしたように息を吐いた。
「ラストオーダーだってよ、なんか飲むか?」
「梅酒サワーくださーい」
「は!?」
「そういう日もあるんです」


「あうっ…」
「へーへー、着きましたよお姫様」
「よきよき……」
お酒とさっきの彼女とのやり取りがずっと頭を回っていた。
それはもちろん、私が悪いわけではないのだけれど。
心の痼が時間が経つにつれ、大きくなっていった。
繋心さんが私を優しく抱いて、ベッドに下ろしてくれるまでの間も、ずっと、大きくなり続けている。
「ねえ」
「は?」
「ほんとうに、わたしなんですか?」
「……何がだよ」
言い澱んでいると、あ、と笑った。
「また妬いてんのか」
にっと悪戯を思い付いたみたいに私に乗ってくる。
二人分の体重が乗ったそこが、軋んだ。
「だって……」
「付き合いが長くても、何でも話せても、それがそういう風になるとは限らねえんだよ」
「…なんで、ですか?」
「しょうがねえよ、脳が『襲え』って命令しねえから」
わかりやすく、直感的に言ってくれているのはよくわかる。
ただ、その例えが面白くて、くすりと笑ってしまった。
「でも、お前は、いつでも喰いたいってなる」
「…っ」
ドキッとする。
そういう言い方、ずるい。
まだ、心の準備が出来ていなかったのに、唇を奪われた。
アルコールの匂いがつんとするけれど、後からくる煙草の苦味が安心させてくれる。
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