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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第55章 【番外編】 パティエンス


ぬるかった、浅はかだった。
一つ屋根の下。
罠なんか沢山あるに決まっている。
お風呂上がりのまったり過ごす時間、私は既にいつも通り膝の上に乗せられ、毎週楽しみにしている番組を観ていた。
煙草を吸った後の独特のにおいがふんわりと漂い、同じシャンプーの香りがする。
ぎゅっと腰に手が回されると、今日に限って心臓がうるさい。
(私のばかっ)
引き締まった固い二の腕が脇を通る感覚、笑ったり話したりすると背中に響く声にすら反応してしまう。
「コイツ、やっぱアイドルじゃねーよなぁ」
「そ!そーですね!ツッコミにキレがありますもんね!?」
自然に返事したつもりがカチカチだった…。
このままでは、いつものように流れてしまう!
私は意を決して立ち上がった。
「…どーしたよ?」
「明日早いし、寝ようかなーと思いましてぇ」
「…だな、寝るか」
あー、なんでそうなるの…。
先に寝てしまおう作戦は始まるまでもなく終わってしまった。
いつもより素っ気ない私はかなり不自然なのか、繋心さんが心配そうに声を掛けてくれる。
「具合悪いのか?」
「っ…!えっと、ちょっと、風邪気味かな、て……」
「明日から大丈夫か?」
後ろからは乾燥した大きな掌がお腹の回りを這う。
さわさわと柔く触られれば、ついつい声が出そうになる。
「…!だい、じょぶ…、くすり、のみましたし!」
「ツラかったら言えよ?」
(違う意味で今ツラいよっ!)
心のなかで叫んでから頑張って寝ようと目を閉じた。
そんな私の考えとは裏腹に、お疲れだった繋心さんは、気持ち良さそうに寝付いていた。
起こさないように寝返りをうって、少しだけその寝顔を見つめる。
下ろされた髪とか、眉間のしわとか、薄い唇とか…何もかもが可愛くて。
「おやすみなさい…」
火照った身体を誤魔化すようにちゅっとキスをした。
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