第55章 【番外編】 パティエンス
講堂に反響して怒声が響く。
何回聞いても私はそれが大好きだ。
痺れるような声が耳に心地よく、差し入れだけしにきたのににやにやと眺めてしまう。
「コーチと、もしかしてなんかあった?」
一緒に眺めていた菅原くんが聞いてくる。
「え?なんで?」
「いつもよりキツいからすぐわかる」
そうなんだ、と普段の練習と変わらない気がしてた情景を見つめる。
「凄くたまにだけど、るるさんは俺たちの運命を握ってたんだ」
菅原くんは気持ちいい笑顔を見せてくる。
「……なんか、ごめんなさい…」
なんとなくだけど、その話を聞いて、少し嬉しいような気恥ずかしいような気持ちになった。
「喧嘩したわけではなさそうだけど?」
「してないよ。
私の気持ちが重すぎて、負担になってないかなって。
そう思っただけ」
「大丈夫そうだべ?」
「ほんと?」
うんうんと頷く菅原くんは、少し寂しそうな顔をした。
薄暗い中で独特の雰囲気で楽しむバーベキューはいつもいいものだと思った。
新入生の子たちも打ち解けて、運動部っていいなぁとジュースを片手に眺めていた。
「お疲れ」
「繋心さんこそ」
同じ部屋だったのに、まるで久し振りの会話。
私が寝たふりをして避けてたからなんだけれど……。
確かに菅原くんには心配ないと言われたのに、私は結局怖くて避けてしまって。
繋心さんは、ムッとした顔で私を見ている。
……最高に、気まずい。
「なぁ、最近、どーした?」
「…っ!」
何が怖いって、やっぱり自分が負担になっていることが事実として本人の口から聞くのが怖い。
それでも、その表情一つ一つが好きで、心臓がぎゅっと掴まれたように痛い。
「なんでも…」
「ないわけないだろ?」
逃げようと立ち上がるも、手首をぐっと引かれる。
「なあ……なんかしたなら言ってくれ」
「してないです!」
「じゃあ、……飽きた、とか…」
繋心さんは、不安そうに私から目を外すと、どこというわけでもなく、空を見つめた。
追い詰めちゃったのかな……、と凄く反省した。
それと同時に、我慢していた気持ちが溢れて壊れそうになる。