第48章 【番外編】エトワール
懐かしいるるの部屋に久々に入る。
残していったものもなかったから、ガランとそこに布団だけ置いてある。
るるは自分の荷物を整理しながら、楽しそうに鼻歌を歌っていた。
「るるは…反対されたらどうすんだ?」
「え?反対?」
「その、こういう関係」
「されるとしたら私の責任ですね、修行し直してきます」
「俺が待ってると思う?」
「ライバルはたくさんいますからねぇ…」
自分と同じ考えで、なんだか不安が少し晴れる。
「いねえよ、俺はお前しか選ばない」
蛍光灯に照らされて、ただでさえ白い肌が赤く色付く。
「私も、そうですよ…」
吸い寄せられるように、その唇に己のそれを被せようと近づく。
長い睫毛が揺れて伏せていく。
柔らかな唇をほんのり楽しみ、期待するような眼差しを向けてくる小さな顔に熱が昂っていった。
(実家じゃなければ……!)
姫納め。
そんな単語が連想され、慌てて頭からかきけそうとるるから数歩足を引いた。
「明日、早いらしいからよ…」
なんて、適当な誤魔化し方をしたが、よれた寝間着の袖をつんと引いてくる。
「一人で寝るの…寒いなぁ、なんて…」
「…っ!」
「明日、凍っちゃってるかも」
「それは、困るな…」
「ね?」
上手く言われた気がする。
それでも熱情には抗えず、その可愛らしい人形に誘われるように布団に入った。
懐かしい実家のにおいが、背徳感を煽ってくる。
(前まで、ここでシてたのに)
おかしいとは思うが、家を出てからだと違和感があった。
るるは、なんとも思っていないんだろうか。
「…っ、ぁっ…」
声を押し殺して耐えているのを伺うと、とっくにもうそんな余裕なんてないようだ。
「いつもみたいに可愛く誘ってくれないのか?」
「…年越しえっち、したいな…」
「ムカつく…」
厚手の生地を寛げると、はちきれそうな膨らみがたゆむ。
新雪を彷彿とさせるその双璧にゆっくりと手を重ねた。
他愛なく、代わり映えのない、その羞恥に歪む表情。
それは、初めてここで交わった時となんら変わらない。
降る雪が音を消しているんじゃないかと思えるくらいに静かな夜だ。
賑わっているはずの神社の音も聞こえない。