第48章 【番外編】エトワール
年の暮れの雪はしんしんと重みがある。
「よし、鍵おっけーです」
戸締まりをしっかり確認して、荷物を持ち直した。
年末くらいは実家で過ごそうか、と尋ねててっきり反対されるかと思った。
「そうですね、私もお母様たちにお会いしたいです」
と快く快諾してくれた。
るるもついでに及川の家に挨拶したいと言っていた。
心配ではあるが、それも家族としての勤めだろう。
一緒に行く約束をし、まるで結婚前のようだと軽く笑っていた。
大掃除を終えたばかりのボロ家も、多少みばえはよくなっている。
出来立ての鍋を囲いながら国民的歌番組を見る。
「あんた、明日こそ、おじいちゃん……」
「やだ」
大御所演歌歌手がゲームのラスボスみたいな格好で出てきて拍手が聞こえる。
第2形態に入る手前で俺たち親子の会話が割って入る。
「ちょっと、まだ最後まで言ってないでしょ」
「やだ」
「もう電話しちゃったから、行くだけ行きなさい」
「………」
逃げ道を失った……。
前々から言われていた、じいちゃんに挨拶しにいけ。
それは家族が認めてくれている、という嬉しさはあったが、押し付けているんじゃないかという不安とまだ学生という身であるるるで許して貰えるのだろうかという不安があった。
待てと言われれば、それはいくらでもこっちは待てるが…向こうはどうだ。
周りにはライバルがごまんといる。
しかも皆カッコよかったり、顔も整っていたり、金持っていたり、将来性もバリバリあったり。
そんなのに横取りされたらこっちは対抗出来るものが何もない。
「明日どっちにしろ新年会なんだから観念しなさい」
帰省するなんて、言わなければよかった…。
心底後悔しながら思った。
「あ、おじいさまにお会いできるんですか?」
「るるちゃん前向きね!」
「怒られるのは俺だからなー!ちくしょー!」