第46章 【番外編】スイート&ビター2
「ただいまー」
玄関を開けると、まんまさっきまでの我が家。
いそいそと暖房をつけ、ストーブをつけ、お湯を沸かす。
さすがに夜はすっかり冷え、指先がキンキンだった。
「ケーキ食べれますか?」
「…ん」
頷いて皿にくらいは盛るか、とお互いいそいそと準備をして、リビングに並べた瞬間に、
「あ!」
とるるが言った。
「なんだ!?」
驚いてこっちも声をあげる。
「写真……撮り忘れた……」
「……ドンマイ」
諦めてもう切ったケーキを何枚か写し、口に運ぶ。
個人の店でオーダーメイドで作ってくれる店だが、ここも腕は評判がいい。
嶋田が教えてくれた店だった。
見た目も華やかな物が多く、予約必須の人気店で、2か月前でキャンセル待ちだった。
「繋心さん、1日ありがとうございます。
凄く楽しかったです」
うっとりとした顔で言われる。
どうやらお世辞ではないようだ。
「たまには、な」
「予約とか色々大変でしたよね?
お疲れさまでした」
「気にすんな」
「…うん」
頭を撫でると嬉しそうに目を細める。
キラキラした化粧を見て思い出した。
「あ、忘れてたな……これ」
鞄からピンクの紙袋を出し、手渡した。
「あ、ありがとうございます…!
わぁ、嬉しい… !」
俺も何を買ったのか(任せきりで)知らなかったので、つい一緒に開けて眺める。
「可愛い!」
「すげえ店だったな…」
「お店の中入れました?」
くすくすと笑われながら聞かれる。
「助っ人に頼んだ…」
「女性じゃないですよね?」
「断じてそれはない」
誰とは言わないが、るるも恐らく察しがついているだろう。
もう、と少し怒った顔をするが、すぐに持っている物に興味が移る。
「付けてみていいですか?」
なんともかわいい宝石モチーフの瓶に入ったリップをさっと付け、手持ちの鏡で見る。
「お、さすがプロ…似合うな」
やくわからない単語を並べ立てられて買って貰ったのを思い出す。
ぱとろーなむ……そんな呪文みたいな単語だった……。
(絶対違うな……)
「繋心さん、相手にリップを贈るのは、キスしたいっていう意味って知ってました?」
「…は?」
艶やかな唇になったるるはいつもより数倍色っぽい。
まるで他人にすら見えるそのエロさに戸惑い、膝に乗ってくるのを許してしまった。
体重が乗ってくるというのには、あまりに軽い。