第45章 【番外編】スイート&ビター1
結局、見繕ったモノは化粧品だったが、あまりにも店内が可愛すぎて、全部東峰に任せてしまった。
「……ここ、俺が入ったら犯罪になる…」
「なりませんよ!?」
「こんな、こんなくたびれたオッサンが足を踏み入れていいとこじゃねえ!」
「く、くたびれた!?」
「頼む、予算を渡す…これで、頼んだぞ…」
そんなわけで、このまっピンクな可愛らしい紙袋を持つ羽目になったわけだが、ひとまず無事、買い物は終わった。
コイツの買い物スキルは凄かった。
「すみません、お姉さんに似た可愛らしい女の子に贈り物なんですけれど…」
肌色、髪色や似合いそうな色を的確に伝え、
「パーソナルカラーは春に近いと思います」
とさらりとよくわからない単語を述べ、何色か実際に試し、店員と二言くらい交わすと、それはもうあっさりと買い物を終えた。
感謝してもしきれねえ!と、某有名カフェでクリームてんこもりの何かを奢ってやる。
「なんか、こう、ディナーまでの繋ぎに使えるようなとこねえのか?」
「ええっと……」
東峰は困惑したように笑って、何か思い付いたのか、俺の顔を見直す。
「デートって本来、相手を信頼したり、信頼させたりする為の手順だと俺は思ってます。
だから、その、るるさんくらいコーチを好きで信頼しあっている関係なら、一緒にいてあげるだけでいいと思うんです。
………持論ですけどね…」
何年も先輩やってて、なんで先に俺がその答えに行き着かないのか…。
(あ、だから結婚できてねーのか!)
はたと辿り着いた真相に、なんとなく、落ち込んでいく。
「んだなー……」
間接照明で薄暗い天井を見上げて、改めて無駄に年を食ってきたと思ってしまった。
「きっとるるさん、コーチが何か準備してくれてるって考えただけで喜んでると思いますよ」
「…なんとなく、予想は出来る」
他人から見てもそういう風に思われるのは、嬉しいことだと初めて知った。
アイツがちゃんと幸せそうにしてるのが、俺に対してだけの上っ面な付き合いじゃないんだという安心感がある。
それは、初めて会った時の、ガチガチの防壁に固められたアイツを見ていたからだろう。