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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第44章 【番外編】鵺


風呂から上がると、既に寝る支度を整えたるるが珍しくノートパソコンを弄っていた。
半年前まで電源も入れられなかったアイツが、すっかりブラインドタッチしながら文を打っているのを見ると、感慨深いものがある。
誰かと話しているようで、肩に端末をのせて、器用に目の前の画面に文字を打っている。
「うん、そう、それで、あの時の教授の名前忘れちゃって…」
画面を見ると、この前の東京研修のレポートを書いているようだった。
「あ、そうだそうだ、その人。
ありがとう」
ということはその携帯の通話相手は…。
「あ、繋心さん、お帰りなさい。
先にお休みください、お疲れみたいですし」
端末を離して笑顔で言われる。
「あ、…おう」
これが自ら望んだ選択肢だ。
今日は老体に(老体じゃねーけど)鞭打ってから寝なくていいんだ…。
布団に潜り、寝ようと思っていたのに。
薄い壁隔てて聞こえる楽しそうな会話。
「え?私そんなこと言ってた!?
恥ずかしい……」
(何を言ったんだよあんな奴に…)
「そうだね、面白かった!
ふふ、だってあの時ね」
(他の奴にそんな笑い方すんなよ)
「それで、書きたかったのが…」
(あー…もう…っ)
頭で考えるより身体が先に動いていた。
部屋を勢いよく開けると、驚いたるるが目を見開いてこちらを見ている。
「ど、どうしたんですか?」
「うるせーんだよ、寝れるわけねーだろ」
「!!ご、ごめんなさいっ!」
自分でも驚くくらい低く冷たい声が出た。
怯えた相手を見て違う意味で冷静になる。
完全に客観的に現状を見ていた。
「ごめんね!
木兎さん、う、うん、おやすみ…」
るるは慌てて通話を切り、恐る恐る俺を見上げる。
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