第44章 【番外編】鵺
夕方、部活に顔を出し、買い忘れた物を思い出してるるのバイト先に向かった。
前まで汚ならしい店だったのに、すっかり清潔感ある店内になっていた。
「繋心さん!お迎え来てくれたんですか?」
「近くまで来たから…」
小さな雑貨屋兼昔ながらの駄菓子煙草店も兼ねており、在庫をどう管理しているのか最早疑問ですらあったが、マメなるるが出して片付けてくれたのか、見易い店内になっていた。
(今度うちの店もやらせるか…)
買い忘れた物と煙草一箱、レジ横の安くなった菓子を適当に買い、それを受け取る。
「おやっさーん、連れて帰っていいっすか?」
と聞くと、遠くから肯定の返事が帰って来た。
そのまま着替えて出てくると、腕を絡ませて嬉しそうに見上げてくる。
「おつかれさまです」
「おつかれ」
語尾のハートに気を取られ、少し遅れて返す。
相変わらずの甘ったるい声に戸惑いを隠せない。
他の奴にもこんな話し方してるんだろうな、と思うと、今後も増えていくであろう恋敵に頭が痛くなる。
一難去ってまた一難。
「繋心さん最近少しやつれましたよね…?
ご飯、品数増やした方がいいかな……」
メニューを見直していこう、と小声でるるが呟くが、根本的に違うということが言いたい。
が、どう言えば傷付けずにすむだろうか。
これは今後の関係にも大きく左右される重要な任務だ。
そのままストレートに言うのもありだが、きっと落ち込むだろう。
愛情に飢えていた少女がやっとの思いで手に入れた居場所。
なんて荷が重い役割だろう。
晩飯にはしかし、早速1品追加されて出てきた。
たんぱく質たっぷり、鶏ササミのマヨ味噌和え。
(わざとか?)
「いただきます」
「……す」
両手を合わせていつものように丁寧なお辞儀をする。
「るるさん、あの、お話がありまして」
「はい?改まってなんでしょう?」
「……その、今日は夜、寝たいな、なんて……」
「???」
疑問符を頭の上いっぱいに浮かべて見つめてくる。
「…はい、寝ましょう?」
「……」
すんなり納得してくれたことに驚いた。
そうだ、もとは聞き分けがよくて可愛い女なんだ。
だから、こうなることはおかしくはない。
妙につかえるモヤモヤを抱えて飯をすすめる。
相変わらず美味い、のに、モヤモヤとした気持ちで食べ進めているせいで何も感じない。