第43章 アップルアンドシナモン 7
室外に出ると、真っ暗だった。
寒い空気が鼻につんとしみる。
肩をちぢこませると、着ている物を1枚肩に乗せてくれた。
「ありがとう!でも大丈夫?」
「このぐらいは寒くねーから!」
「そっか、すごいね」
爽やかで温かみのある香りがする。
ほとんど人通りのない繁華街は少し寂しい。
飲み屋さんのある通りはそこそこ盛り上がってる音がする。
二人並んで、下らない話をしながら歩く。
「もう、帰っちゃうんだな」
「…そうだね、寂しいね」
困ったように笑うけれど、木兎さんは本当に寂しそうに言った。
彼の、たまに見せる幼い雰囲気が可愛らしくて、本当はいけないかもしれない。
でも、その大きな手を取らずにはいられなかった。
「また、遊びに来るね?」
「……別れたら来い」
「別れないってば」
おかしくてつい笑ってしまう。
寮まで送ってもらってしまった。
着ていた羽織を返して、持ってもらった荷物を受け取る。
「なあ」
「ん?」
「最後だから、いいか?」
少し泣きそうな顔で、両腕を広げられて待っている。
大きな身体だな、と改めて思う。
「しょーがないなぁ」
コンクリートに荷物を落とすように置き、思いっきり飛び込んであげる。
よしよしと届かない背中を諦めて、腰を撫でてあげる。
「くそーっ!」
「ごめんね、本当にごめんね?」
何一つ答えてあげられない。
こんなにたくさん貰っているのに。
「謝んな…っ」
私が謝罪をすることの方が、残酷かもしれない。
それでも言わずにはいられない。
「ごめんね…!!」
夜の灯りに照らされて、キラキラと小粒が光っている。
今年の初雪は、少し早くて、温かい。