第43章 アップルアンドシナモン 7
「取り外しできるファー…中のキルト生地…ウエストがしっかり出るライン…そしてこの色味…!!」
「決まったか?」
「うん!」
出発ギリギリまで見た甲斐があって、やっとのことで冬物コートを手に入れた。
好きな時間に帰っていいことになってるのは、かなりありがたかった。
お土産と荷物を整理するトートバッグものんびりと探せて、ある程度の荷物を宅配に出し、お茶をしながら待つことが出来た。
「木兎さんがいてくれたから、凄く楽しかった!
ありがとうございました」
深々と頭を下げると、こちらこそ、と笑ってくれた。
「昨日は………カッコ悪いとこ見せた…。
忘れてくれ!!」
「忘れないよ。
大事な思い出の一つだよ」
「…はずっ」
叱られた子犬みたいに視線を反らして落ち込む木兎さんは、どこか可愛らしい。
笑っていると、頼んでいた焼き林檎が目の前に置かれる。
シナモンスパイスが効いてていい香りがする。
「私ね、木兎さんといる方が、もしかしたら楽しいの」
生クリームをナイフで伸ばしながら、淡々とずっと思っていたことを話す。
「居心地がいいと言うか…緊張しないし、ずっと笑わせてくれるし、時々可愛くて。
きっと、先に出逢ってたら、そういう関係だったのかもしれないね」
先に来ていた紅茶に、お砂糖とコーヒーフレッシュを垂らして、少しだけ混ぜる。
濁っていく色を見て、そうなんだ、と一人で納得しながら続きを話す。
「林檎とシナモンて、美味しいね。
最初に考えた人はすごいね」
木兎さんは、少しだけ不思議そうな顔をして、焼き林檎を見つめる。
「久々に食べて思ったんだ。
あ、私達の相性はこれだなあって」
「……」
驚いてはいたけれど、どこか嬉しそうに私の話を聞いてくれる。
「また来たら、たくさん楽しいこと教えてね」
「別れてから来いよ、絶対!」
「別れないって、もー!」
もう冷めた紅茶を飲み干して、私はホームに向かう。
寂しそうなわんちゃんを見つめる気持ちで、遠く離れていく大きな影を見つめる。
心の中で、可愛いなあと何回も思う。
でも。
それでも。
私は、答えてあげられない。
「…っ」
きっと彼は泣かない。
だから私が泣いておこう。
もうすぐ長い冬がくる。
願わくば、またいつか、春が訪れますように。