第43章 アップルアンドシナモン 7
すっかりなかったことにされてしまった事件から月日は経って、研修最後の日となった。
まだ暑い季節に来たのに、すっかり寒くなっていた。
家の方はもっと寒いだろう。
そういえば、薄手のコートしか持ってきていなかった。
せっかくだからお洒落な町で買おうと、木兎さんにどこがいいか聞いてみた。
「なんだ、それならあっちにモールがあるぞ!!!」
「そうなんだ、じゃあ帰りに行ってみようかな?」
木兎さんも時間があると言ってくれたので、案内がてら付き合ってもらった。
それはもう、たくさんの店があって、半分も回りきれなかった。
「ううっ、あっちにももしかしたら可愛いのあったかもしれない……」
「また明日行けばいいさ!」
結局コートとは全く関係のない服を買ってしまった…。
というのも、木兎さんは盛り上げるのが上手なように、すごくおだててくる。
「るる!絶対これ似合う!!」
とか、
「これも、可愛い!!着ているところが見たい!」
とか、試着すれば、
「お前の為に作られているとしか思えないぞ!!」
とか、もう、終始赤面していた。
店員さんにも、いい彼氏さんですね、と笑われる始末だった。
彼が接客に携わったらどれだけ黒字になるだろうか、とふと思った。
「買い過ぎちゃったなぁ…いらないの捨てていこうかな…」
冬服は重くて嵩張るというのに、紙袋3つ分の荷物を減らさなくてはならない。
「いらないなら貰うぞ?」
「え?何に使うの?」
「オ」
「ごめんなさい譲れません」