第41章 アップルアンドシナモン5
昼過ぎ、目を見張るような美女に声を掛けられた。
「るるさん、昨日の遠足、木兎くんと一緒だったんだって?」
「あ、はい…」
(あれ?これ、まずいやつでは…?)
徹さんと暮らしていた時、似たようなシチュエーションに遭遇したことがある。
「勝手に人のモノに触るなんて」
(えー!?木兎さんそういう人がいるのに私にちょっかい出してたのー!?)
2回も関係を持ってしまったことに、切実に懺悔する。
しかもこんな美女と!
私なんて敵わないじゃない!
と少し毒づく。
ベージュのボブヘアーがよく似合う、ふわっとした可愛らしい女性で、睫毛が長くてまるでお人形さんだ。
「ごめんなさい!
私もあの、彼がいるので、その、…友達です、ふつーに!」
なんとか中学の二の舞を避けようと事実を述べたが、果たして信じてくれるかは別の問題である。
「寮の前であんな熱い抱擁をしといて?」
(あちゃー……)
「ごめんなさい……」
平謝りするしかない。
私だって、繋心さんが知らない女性と抱き合ってるなんて知ったら、きっとこうなる。
「ねえ、あなた、昔風俗にいたって噂流れてるわよ」
「え!!」
それは、少なくとも外れではない情報ではある。
流したのは誰…?
こっちに来てからそういうことになったのはたった一回。
それも木兎さんなの?
どうしてその話が流れてるの?
急に何もかも疑いたくなる。
怖い……。
「あら?図星?
これ以上広めて欲しくないなら、今倉庫にいる奴ら相手してあげてくれる?」
「その話、ここで止めてくれますか…?
その、ほ、本当に……」
「怖がっちゃって可愛いとこもあるねぇ」
彼女は睫毛を揺らせて、いいわ、と短く返事をくれた。
慌ててその倉庫に向かう。
(もう…皆して倉庫なんだから…)
悪態をついて、私は急いだ。