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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第40章 アップルアンドシナモン4


寮での生活に慣れたところで、皆で深夜のカラオケに行く計画が持ち上がった。
就寝時間が過ぎてから、こっそり寮を出るというものだった。
乗り気じゃなかったけれど、ここ数日、忙しいらしい繋心さんからは、眠たい声の電話くらいしか出来なかったから、寂しさを紛らわすのに参加してみた。
街中どこを行っても明るい繁華街は、本当に凄かった。
男女10人で大部屋を取って、そこで初めてカラオケを体験した。
私は音楽を聞かないので何していいかわからず、端っこでぽつーんとジュースを飲みながら雰囲気を楽しんだ。
木兎さんは盛り上げるのが凄く上手で、そういう才能もいいなあとぼんやり思った。
「るるは?なんか歌えないのか?」
「うん、テレビとかあんまり見ないから、わからないの。
でも楽しいよ、ありがとう」
ちゃんと楽しんでるか、心配して声をかけてくれたんだろう。
「あ!」
急に繋心さんから電話が掛かってきて、私は慌てて廊下に出て聞く。
「もしもし!」
凄く弾んだ声で室内から出ながら言ったのに、電話の声を聞いて、私はドン底の淵に叩き落とされた。
『あっ!ああんっ!!あっあっ…!!』
女性の喘ぎ声。
『はっ…っ』
掠れた繋心さんの声。
「け……」
これを聞かせる為にわざわざ電話したんですか?
と嫌みな言葉が浮かんだ。
私がいなくてたった数日で他の女性を家に呼んでそんなこと出来るんだ……。
やっぱり、好きなのは、私だけなんだ……。
急に出ていった私を心配して木兎さんも出て来てくれる。
「るる?」
「……っ」
無言で電話を渡して、内容を聞かせる。
向こうもわざとなのか、そのまま垂れ流してる。
「るる……これ……」
「ごめんなさい、お金置いてくので、もう帰ります……」
「…るる…」
「ごめんなさい……」
室内から鞄を取って、財布からいくらか出して叩きつけるように渡した。
携帯の電源を落とすと、その場を走って離れた。
「…っ!!るる…!!」
あっさりと大きな手に捕まると、キッと睨み付けてしまう。
「なんですか…?私を笑いたいんですか?」
「勘違いだろ?アイツ…」
「気休めはいいですから…っ」
我慢していた涙が溢れてくる。
木兎さんも戸惑う表情をしている。
困らせたいわけじゃないのに…。
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