第38章 【番外編】言わないと伝わらないこともあります
このまま、いつかは俺のことも好きになってくれるんだろうか。
なんて淡い期待を抱いてしまう。
彼女は、彼のことを、生きる希望だと言った。
きっと一生勝てないだろう。
もし家出を助けたのが俺で、一緒に暮らそうって言ったのも俺なら、こうなってくれていたのだろうか。
それとも、同じ結末を迎えていたのだろうか。
答えの出ない疑問を考えても仕方がない。
彼女が幸せならそれでいい。
それでいいんだ。
ふと、卒業式前に、大地の言葉を思い出す。
「大事なモノ、譲ったんだ。
欲しくなったら、奪い取れ」
部活でも、この気持ちでも、そうだ。
悲しませることはしたくない。
それは、前提だ。
「たまには…羽目外しのデート、しようよ」
精一杯の勇気を振り絞って出した声。
「そうだね!」
嬉しそうに、しかも簡単にこれを受け入れる。
少し拍子抜けしてしまう。
「…え?そんな簡単に?」
「うん!今日楽しかったし、何より、たまには緊張しないで過ごしたいからね」
ふふっと柔らかく微笑まれる。
ああ、本当に。
(ごめん、大地。
こりゃ、無理だ)
いつも背中を押してくれる大親友に心のなかで深く頭を下げる。