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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第38章 【番外編】言わないと伝わらないこともあります


るるさんは、お気に入りだと言う服のお店に何店舗か入り、秋に少し向けた服を手にとっては試着しに行った。
「彼氏さんはどういうの好みなんですかー?」
と店員に言われ、彼氏という単語にとても動揺した。
「え?えっと……あー、なんでも、似合うかと……」
「きゃー!!素敵っ」
カーテンを開けると、さっきまでと全く雰囲気の違うるるさんが出てくる。
少しレトロな襟付きのブラウスとタイトなスカートは、有名な映画のヒロインのようで、それはそれで味があった。
「かわ、い……」
「ほんと?いい感じ?かな?」
黙って首を縦にふり、るるさんの様子を見る。
「じゃあこれにしよ、靴もお願いしまーす」
「はーい」
あまりにもあっさりと買うのに少し驚く。
「いいの?他のは…」
「うん、菅原くんに可愛いって言って貰えたから」
「そんな……」
いつでも思っています、とは言いづらく、口まできた言葉をそっと飲み込む。
もっと女性の買い物は時間かかると思ったけど、割りと余ったので近くのカフェでお茶をご馳走した。
「楽しかったー!1日ありがとう」
「こ、こちらこそ!」
相変わらずお世辞でもなんでもなく、いい笑顔で言ってくれるのが気持ちいい。
「繋心さんとお買い物だと、子供っぽくならないようにしなきゃって緊張しちゃうから、はしゃいじゃったの。
振り回しちゃってごめんね?」
「そう、なんだ…」
意外にもそんな言葉が聞けるとは思わなくて少し驚いた。
きっと俺より大人な彼なら、もっと優しく包容力を持って接している気がして。
「服とかもあんまり褒めてくれないし、だから新鮮!」
「それはわかるかも…無頓着そう」
それでも、本当に勝ち目がないくらい優しい顔でその話をする。
今日も彼女にとっては暇潰しだ。
でも、今の俺にとっては、大切な数時間だ。
いつか思い出になってしまうだろうけど、今年の夏も彼女と過ごせたことは、新しく保存したばかりの、生まれたばかりの幸せ。
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