第33章 アップルアンドシナモン2
「いや!」
冷たくそれをはらう。
違う、そんなことしたいわけじゃない。
「…ご、ごめんなさい………」
「や、俺が…」
首を横にふる。
わかってる、わかってるのに。
「……っ」
「けーしん、はやくしてよー」
甘えた彼女の声が聞こえる。
「…悪い、送ってくるから、家にいて、待ってろ」
そう、そうするのが当たり前なのに、私は今それが凄く嫌に思える。
なんでだかわからない。
私を優先して欲しい。
なんでそんな風に思ってるのかわからない。
二人を乗せた車を背中で見送る。
凄く気持ちが悪い。立ってることがやっとだ。
「……っ」
また、またおうちがなくなる。
肩掛けの鞄から紙ナプキンに書かれたアドレスに、無意識にメールをする。
『もう出発しちゃった?』
『まだだけど、どした?』
『そこにいて』
大通りまで走ってタクシーを捕まえる。
ここから駅前。
お財布がからっぽになるような金額だけど、私はそこにいたくなかった。
1秒でも早くこの現実を忘れたい。