第33章 アップルアンドシナモン2
「繋心さん!」
見慣れた車に乗り込んで、一番落ち着く顔を見る。
「おかえり」
「ただいま…!」
繋心さんは怒るでもなく、静かに笑って迎えてくれた。
「ごめんなさい……」
「ああ、大丈夫、そのつもりでいた」
色々話してたつもりだったのに、私も彼もどこか別のことを考えていて、言葉がとっ散らかっている。
特に答えが欲しい話をしてるワケじゃないんだけど、お互いに「ああ」とか「うん」くらいしか、相槌が出てこなかった。
会話らしい会話にならないまま、自宅に着く。
玄関を開けると、彼女はいた。
「おかえりなさーい」
「…!!」
「お前、帰れっつっただろ」
繋心さんが今にも殴りそうに怒る。
私は、なんでか、凄くショックだった。
ショックだったというのも正しい言葉かわからない。
「もう、遅いですから、いいですよ」
振り絞って考えてやっと出た自然な言葉。
「よかねーよ。邪魔だ、帰れ」
「いーじゃん別にー。昼からいたんだしさー」
「昼から……」
今日は繋心さんはお休みだった。
家事しとく、って、出掛けないでいるという予定をふと思い出して、思わず鸚鵡返しをしてしまう。
「いい迷惑だ、遅いだろうがなんだろうが関係ねえよ、もう帰れ!歩いてでも帰れ!」
「ひどーい!こっから何時間あると思ってんのよー。
あ、車あんじゃん、実家に置いてくなら乗っけてよ!」
「……ちっ、るる、ちとこのクソやかましい奴置いてくるわ…」
「……」
なんでだろう、私の為にそうしてくれようとしてるのに、私は、肯定が出来ない。
いつもの車のさっきまでの私の席に彼女が座ろうとしているからだろうか。
玄関から見えるリビングのテーブルに、いつも使ってるお揃いのカップが見える。
私は、朝、しまっていたはずなのに。
私の居場所を私は探している。
血が冷えてくる。
指先が冷たくて震える。
もうすぐ蝉の鳴く季節。
頬に触れる湿った空気は確かにどこか暑いのに、私は寒くて仕方がない。
どうして?
なんで?
「……っ」
「…るる?」
私が変なのに気付いて、繋心さんが肩に触ろうとする。