第33章 アップルアンドシナモン2
「東京まで付いてくる気になったか!?」
「なりませんよ…」
くすくすと笑うと、カウンターに横並びに座る。
「どうして今こっちに?」
「観たい試合があって来た!
もうちょいしたら夜行バスで帰るんだ!」
「そうだったんですか」
賑やかな木兎さんの声が、今日取り戻せなかった元気をわけてくれる。
「お前こそ何してたんだ?」
「彼氏がいるのに合コンに行きました」
はー、とため息が出る。
「元恋人が突然現れて、ちょっと息苦しくなっちゃったんです。
ちょっとしたストライキのつもりだったんですけど、結局モヤモヤして後悔してます。
でも、木兎さん見てたら、元気になりました」
「…なんだ。
それなら、明日帰るから、一晩遊んどく?」
遊んどく?って聞いているのに、目はすごく本気だ。
突然、静かに低く言われて思わず吃驚する。
「でも浮気されたワケじゃないので、それは遠慮しておきます」
「残念だ」
カフェオレについてきたクッキーをかじると、少し塩っぽい味がする。
「俺の隣はいつでも空いてるからな!!
その気になったら、来い!!!」
「捨てられたら、その方向も考えておきますね」
スマホが振動すると、メッセージが来ていた。
『着いた、駅前のロータリー』
「お迎え来たので帰りますね」
じゃ、と立ち上がる。
どうしても、と言うので、アドレスを紙に書いて渡された。
「使わなくてもいい、持っててくれ!」
力強くそう言われる。
わかった、と返事して走って待ち合わせに向かった。
答えてあげられない誠意に少しずきっと痛む。
なるべく振り返らないようにして、顔を見ないようにして、その場を離れた。
顔が少し熱かった。